その場がど~んともりあがる雑学の本
相手の気をひく雑学<第1章>
川端康成(作家・ノーベル文学賞受賞。『雪国』『伊豆の踊り子』の作者)の寡黙は関係者のあいだでは有名でした。独特のギョロ眼で相手の顔を見つめながら、それでいてほとんど口をききません。
あるとき、女性編集者が念願の川端邸訪問を果たしました。大作家を前にして、緊張した彼女は懸命に話し、川端の対応を期待したものです。ところが、川端はジロジロ彼女を眺めるだけで、なんの反応もありません。いよいよ動転してあれこれ話しかけるけれども、相変わらずのだんまり。
ついにプッツンした女性編集者は「ワァッ」と大声で泣き出したのでした。そのとたん、川端は不思議そうな表情を浮かべて「あの、どうかしましたか」と、やっと口を開いたそうです。
晩年、京都で舞妓を大勢並べて目の保養をしたときも、川端は終始無言のまま、一人ひとり舞妓の姿をジロジロと眺めました。ひとわたりすむと、また始めから舐めるように凝視をくり返す。舞妓たちは気味悪がりました。異様な静けさが長くつづいたあと、突然、川端は微笑を浮かべて「きょうは、みんなありがとう、ご苦労さま」。
意地悪ではなくて、むだ口をたたかないというのが川端康成のつき合い方だったというわけです。
「講談社+α文庫」所収
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