その場がど~んともりあがる雑学の本
とにかく話をつなげたい雑学<第3章>
料亭の突き出し、一口食べて「ウーン、おつな味」。
この「おつ」は、趣のある、粋な、というような意味。これは、じつは音楽用語からきています。
邦楽では高い調子を甲というのに対して、一段低い調子を乙といいます。「甲高い声」というように、甲は高く鋭く響くのに対して、乙は「低音の魅力」などというように、渋くしんみりとした調子であるところから、この意味に使われるようになりました。
おつな味の料理を肴に、お酒を飲んで自慢話なんかを始めると、「なんだ、あいつ、図に乗りやがって……」と、まわりから白い目で見られることになります。この「図に乗る」というのも広い意味での音楽、声明からきています。声明とは、仏教の儀式や法要で僧がとなえる声楽のこと。古典の調子どおりに歌うのは、たいへんむずかしいため、調子の変わるところには印がついています。
これが「図」で、僧たちは練習に励み、そのとおりに上手に歌えると「図に乗った」といって喜んだといいます。このときばかりは、謹厳な僧たちも浮ついていて、得意げに見えたのでしょう。「図」がなんであるか知りもしない人々のあいだで、調子づくという意味に使われ出し、それが定着したようです。
さて、調子づいてお酒を過ごすと「ろれつ」が回らなくなります。その「ろれつ」とは、「呂律」と書き、「りょりつ」と読みました。呂も律も雅楽の音階名です。雅楽を合奉するとき、呂の音階と律の音階がうまく合わないのを「呂律が回らない」といっていましたが、音が変化して「ろれつ」となり、そのまま使われているのです。
「講談社+α文庫」所収
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