小さな骨の動物園【盛口 満・西澤 真樹子・相川 稔・安田 守・安部 みき子・瀬戸山 玄】

小さな骨の動物園


書籍名 小さな骨の動物園
著者名 盛口 満・西澤 真樹子・相川 稔・安田 守・安部 みき子・瀬戸山 玄
出版社 INAX出版(71p)
発刊日 2005.12
希望小売価格 1500円+税
書評日等 -
小さな骨の動物園

カメ・アズマモグラ・ミミズク・・・・生きもののすべての骨は理にかない、ふしぎでシンプルで愛らしい」
これは本書の出版とともに大阪INAXギャラリーで開催された「小さな骨の動物園」展のキャッチ・コピーである。裏表紙を飾るワシミミズクの骨格写真を見ると、あのルーブル美術館の広い階段の踊り場に置かれている翼を広げる勝利の女神・ニケの像を髣髴とさせる凛とした姿である。なるほど、骨格こそ機能美の極致だと納得する。

生きている生物・その屍骸・骨(骨格)といった異なった次元で日常の私たちは生物を捉えている。その視点は感情的に言えば各々異なった感覚である。屍骸を見る目は我々にとって一番感情として揺れる。生の終着としての姿を見るときの生きている自分の危うさを見るからだろう。

一方、骨は不思議なもので、骨格標本は逆に死ではなく、生きている動物の姿を想像したり、動いている生物からは気づかない機能としての骨の構造を理解できる。精緻で無駄がない。骨を身近にというものいささか奇異とはいえ本書の基本的な発想は、骨こそ機能を徹底的に追求した結果の形状であり、デザインとしての完成度は高いことを美しい写真として表現することに有るようだ。写真を担当した大西成明の力を十分感じられる作品だと思う。

ヘビ・アズマモグラ・アンコウ・アブラコウモリの骨格写真に始まり、まとめ方は大別して科学的というより普通人の興味を引く構成になっている。

「身近な小さな動物(ツバメ・スズメ)」の骨格は木の枝に乗った写真で生きている時の姿とだぶる。

「頭骨はユーモラス」と称して11種の動物・魚類の頭蓋骨を同一縮小比率で示している。「野生の表情」としてサルの仲間15種の頭骨の一覧。これはサル達の面構えが感じられる。面構えといえば固体ごとの差とも思うが、表情さえ感じられるのも不思議だ。

「海には青い骨」と題された写真には驚く。テンジクダツの骨や歯は確かに青い。胆汁に含まれるビリベルジンという色素が青くするという。

魚の小さな骨として鯛の鯛といわれる骨は鯛を食べたとき探したりしていたが、その「鯛の鯛」は烏口骨と肩甲骨で胸鰭を動かす筋肉を支えている骨である。したがって別に鯛にだけあるわけではない。ティラピアやキビレハタなどの「鯛の鯛」を見ることが出来る。

こうした、写真とともに6人の人たちが文章を書いている。森口満(エッセイスト)。彼は高校の理科の教師だったが、退職後、沖縄の珊瑚舎スコーレというNPO立の小さな学校(生徒数25名)の講師をしている。この学校にある部活のひとつが「骨」部というクラブで、解剖する死体が手に入ったとき、時間と興味がある生徒が集まって活動するということのようだ。森口が骨部顧問をしていて、「骨部始まって以来のカワイイ系動物!」とリスの解剖の部活ポスターが廊下に張られた、などと聞くと中学生・高校生の定形化されていない感性もほほえましい。

小学生に鳥の翼の指の数を聞いた結果も面白い。一本13人、二本38人、三本105人、四本208人、五本89人だったそうだ。鶏は我々にとって一番身近な骨を見る動物であるが、手羽先たべてもそんなにじろじろ見ないので私もいささか自信なかったが、正解は三本。これは祖先の形質を引き継いでおり、恐竜と一緒である。

また、この教室でダチョウの骨を調べたときにその軽さに驚いたという。鳥といえどもダチョウは飛べないのでそう骨が軽いわけではないと思いきや、長さ26センチ・中央の直径5センチの骨が200グラムだそうである。これは同じ大きさの牛の骨の1/3の重さ。飛ぶから骨が軽いのではなく、その原初形質を引き継いだ仲間ということなのだろう。

西澤真樹子(標本製作チーム・なにわホネホネ団)は貝塚市立自然遊学館哺乳類担当。彼女が大阪で主宰している子供たちのための骨格標本作りの紹介。

相川稔(ヴィースバーデン博物館自然史コレクション・標本作成技師)は高校生のときから解剖と標本作成に魅せられ、ドイツに標本作製技術専門学校があると知って入学。「要は博物館や研究室の標本作製技師を養成する学校で、生物標本の生物学科、化石などの地質学科、医学標本の医学科の3つの専門コースがある。・・・この博物館でも骨標本は剥製標本に比べて少ないが、それでも200年の蓄積ともなると相当なものだ」。この世界ではやはりヨーロッパでの実績が格段なのだろうか。

安部みき子(大阪市立大学大学院研究科助手)は縄文時代と弥生時代における遺跡から出土する動物遺体の研究も興味がそそられる。大阪平野の鬼虎川遺跡での縄文前期・中期・後期、弥生時代の地層から発掘された骨からその変遷を説明している。

いろいろなジャンルで活躍する骨や骨格に関わる人たちの文章はてらい無く、自分の専門分野や興味のあることを書いている。皆楽しんでいる感覚が良くわかる。自分で解剖して、骨格標本を作ってみたいとは思わないが、もう一つ知らない世界を垣間見た面白さである。(正)

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