「荒ぶる」復活【清宮克幸】

「荒ぶる」復活

満員の国立競技場を夢見る


書籍名 「荒ぶる」復活
著者名 清宮克幸(山本光伸訳)
出版社 講談社(256p)
発刊日 2002.11.20
希望小売価格 1,500円
書評日等 -
荒ぶる」復活

はじめっから断っておくけれど、僕は早稲田ラグビーのファンである。一月二五日、関東学院大を破って13年ぶりに学生日本一になった満員の国立競技場に、なにを隠そうこのブック・ナビの主宰者とともにいて驚喜した(僕だけ。主宰者は慶応です)。試合後、渋る主宰者を強引に説得して大隈講堂前の祝勝会まで行って、「荒ぶる」(大学日本一になったときだけに歌う第二部歌)を歌ってきた。だからこれは書評というよりファンレターに近い。

70年代の早稲田全盛時代、80年代の早明時代を知る者にとってこの10年の低迷は、どこまで続くか見当もつかない冬の時代だった。神戸製鋼を筆頭に社会人ラグビーが世界レベルに少しだけ近づいたこともあって、興味はそちらに移り、早大出身のラガー(堀越や増保、この本の著者である清宮ら)を応援するのがファンとしてのかすかなつながりだった。

一応、早明戦や早慶戦は見ていたが、早大の横のゆさぶり、明大の縦突破といった十年一日で創造力に欠けた学生ラグビーには、正直のところ、うんざりだった。2001年、2流チーム早稲田の監督になった清宮克幸は、就任1年目で11年ぶりの対抗戦優勝をなしとげただけでなく、世界レベルのラグビー(オーストラリア・スタイル)を指向して早稲田ラグビーを一新させた。

清宮克幸は、なぜ就任1年目で対抗戦優勝(学生選手権は関東学院大に惜敗)、2年目でその関東学院大を倒して学生日本一という、まるで漫画かテレビドラマの筋書きのような成果を上げることができたのか。それがこの本で明かされている。

といって、特別の秘密があるわけではない。清宮が重んじるのは「合理性」と「強いハート」である。

学生と最初に顔を合わせるミーティングのために清宮が準備したのは、試合でのボールの動き方やミス、攻撃の精度を数字にし、敗因の分析シートを作成する「ビジュアル化と数値化」だった。清宮はその結果をプロジェクターで学生たちに見せ、「激しさ」「高速」といった5つのキーワードを告げた後、こう言ったという。「練習時間は2時間(早大の長時間練習は有名だった)。俺についてくれば優勝させてやる」。この一言で、清宮はカリスマ性を獲得した。

清宮は毎日の練習でも、各人のメニューを数値化して目標値を設定するなど、合理的なトレーニングを導入したが、一方、「強いハート」のために、あえて選手を一軍から二軍に落としたりもしている。

1年から3年までレギュラーだったロックの選手を、物足りなさを感じた清宮は夏の合宿で二軍に落とす。その選手は、なんと清宮が現役でキャプテンの時の監督の息子である。しかも父親の元監督は合宿にも来ている。父親の目の前で二軍に落とされた選手は、目の色を変える。「下に落ちてから上にはい上がってくるときのエネルギーたるや、とてつもないマグニチュードなのである。これを経験しただけで、どんなに息が上がっても「なにくそ」と思えるようになる」。

シーズン開始とともに「計画どおり」一軍に戻り、しかもロックからナンバー8に抜擢されたその選手は、1年目の対抗戦全勝のキーマンとなった。もっとも、清宮のいう「強いハート」は、今でも根強く残る運動部の根性論とは違う。そのことを物語る、こんなエピソードも記されている。

OBと現役が交流するラグビー部のお祭りの日、OBが1、2年生を集め、「お前ら挨拶がなってない。気合を入れてやる」と怒鳴って、グラウンドを走らせた(よくある光景)。翌日、清宮はこんなふうに学生を怒る。「なぜ走った。そんなことでどうするんだ。なぜ自分が正しいと思ったことを発言しない。間違いだと思ったらやるな!」

「高校、大学を通じて、納得できない指導や練習方法には徹底して反論した」という清宮らしい言葉だ。こうした学生への指導だけでなく、清宮の手腕はクラブ運営についても遺憾なく発揮される。

アディダスとユニフォームのスポンサー契約を結ぶ。最新のトレーニング・マシンとコンピュータを連動させたフィットネス・ルームをつくり、そのソフトを企業化しようとする。現役チームとは別に、OBが運営し、地域に根ざしたクラブチームを考える。そのようなことが同時進行している。

一言で言えば、これは一大学ラグビー部の監督という枠を超え、人気低迷中のラグビー界全体の活性化を視野に入れた、清宮克幸の構想力の勝利なのではないか。ラグビー界で、早大が最大の観客動員数を誇っているのは、今も昔も変わらない。早稲田復活と、今年から始まる社会人のトップリーグを起点に、国立競技場が満員になるスリリングなゲームをたくさん見たい。そう思わずにいられない。

なお、この本は対抗戦に優勝した1年目のシーズンのゲームを中心に書かれている。大学日本一になった2年目のシーズンのことは早大ラグビー部の公式サイト(http://www.wasedarugby.com)に詳しく、関東学院大戦についての清宮へのインタビューもある。(雄)

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