女ひとりがんと闘う【アンリ菅野】

女ひとりがんと闘う

何ともあっけらかん だが塗炭の苦しみも見え


書籍名 女ひとりがんと闘う
著者名 アンリ菅野
出版社 青春出版社(204p)
発刊日 1999.5
希望小売価格 1,400円(税別)
書評日等 -
女ひとりがんと闘う

4期のがんを6カ月でふっ飛ばした仰天パワフル闘病記、とカバー表紙に惹句が印刷されて、いかにも青春出版らしいが、腰巻きの方はおとなしく、「今を生きることへの感動!」とあり、ジャズシンガー、アンリ菅野が初めて語る、がん克服と自分探しの物語と続き、こちらの方が内容をよくなぞっている。 あっけらかんとした、ブルース・ジャズを歌っても、いかにも白人様で知られる歌手アンリの闘病は、98年7月29日のがん告知に始まる。

予兆は4月ごろの足の腫れにあったが、根が明るく、“気”を信じる本人には、手術はもってのほか、九州の病院で告知を受け、最初に取った作戦はここ3年間自分の身体を傷めてきた生活の改善、この元気な私の精神力と身体の自然治癒力への自信であった。

ガンセンへ9月に行ったところが、やはり診断は同じ、膣の裏側、直腸と隣接する部分の4センチほどのガンと、腸管と左大腿深部の血栓であった。

その後の本人の行動にしばしば現れるが、ともかく即入院・手術の回避ないしは敵前逃亡、そして東洋医学への傾性だが、まず散っては困る血栓の治療は受けた。

生まれてこれが初めての入院、一週間の点滴続く一週間の検査、初めての入院には点滴の苦痛はショック、結果は狙った血栓は溶けず、その間、いやその後の闘病でも一貫して食欲は落ちない所にガンを吹っ飛ばした根源が見られる。

一時は、手術の規模の大きさに真っ青とはなったが、最終方向は血栓もあって放射線治療だった。ホッとしたのは、手術だけではなく抗がん剤でもなかったこと、さ~てアンリの始まり、治療開始前日に10日の猶予を強引に貰って中国へ気功治療に向かう。

豊富な、国を問わない友人の存在が彼女の武器だが、この場合もそれで、友人の多さもさることながらよくその後も交情を保っていることが役に立った。

4期の重度を治癒させたとの話のはずが、気功師の王さんは初期ならという返事、また、術後の回復に気功を用いるのであって気功には治癒力はないとのこと、暫し北京に滞在して、公園での苦しいがやる気一杯の気功三昧、しかし体力ダウンが如実となり2週間で帰国、その翌日の日曜日深夜についに大出血、丹田呼吸で凌いで朝病院へ電話し即外来へ、そして30回の放射線治療の始まり、その間出血を止めるガーゼの詰め替えの痛さに苦しむ、20回を過ぎた辺りから照射による火傷が始まる、かゆくて痛い、入浴や排便もままならずおまけに眠れない。

体験と彼女自身の生来の楽天さも相まって、入院生活の心得が語られる。ともかく落ち込んではいけない、調子の良い時には好きなことをやる、お互い明るく励ましあうこと・・・。さすが食欲は一時落ちたが病院食がまずいこともある、その間、呼吸法、メディテーション、イメージ療法、腹筋鍛練は続けた。

同室人を通してガン治療の様々、人々の対応の様々が紹介されているが、彼女はさながら励まし役・カウンセラー、みんなの心構えに叱咤を与える。結論は、ガン病院には精神科医が必要なこと、闘うための心のケアシステムが必須なのだ。

やっと退院、すぐさま湯布院の別荘生活へ、そして自炊、この時もジャズ教室の生徒さんたちの助けがあった。一週間後にはもう歌い始めた。一カ月後には初ライブ、数ヵ月を経ての検査の結果はなんと“ガン細胞は見当たらず”だった。

ガンと闘って多くの人の助けのありがたさとそれへの感謝の念、彼女なりのガンになった理由は、将来の収入不安から来るストレス、ハードな各地教室巡り、ステージ数減少への焦り、度々の外航、無理なスケジュール、忙しさへの埋没、失恋、メディテーションの中断、この8項目、自罰的な言及だがいかにも彼女らしく病理的な解釈はこれっぽちも見られない。

これからは、新しく始めたマクオビオティック・食事改善とにかく良いことは何でもやってみる、適度なお休み、念ずれば願いは叶うという気持ちの持ちよう、イメージ療法が役に立ったと信じてやまない。最後の言葉は同志に向けて「みんなも頑張ってね。楽しくなければ生きられないから」のチャンドラー類句でエンド。

ガンであろうとなかろうと、驚くべき活力を与えてくれる書だ。いささか、気への傾倒がわずらわしい感じを持たせるが、確かに社会への素早い復帰にはそれが欠かせなかったろう。助けてくれた友人たち、出会った数々の病人の生き様が存外参考になる。望むらくは、あっけらかんの内にきっとあったはずの死への不安、死の認識の吐露、を聴きたかった。さすがの彼女もブルーノートに嵌まったはずだから。(修)

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