郊外はこれからどうなる?【三浦 展】

郊外はこれからどうなる?


書籍名 郊外はこれからどうなる?
著者名 三浦 展
出版社 中央公論新社(238p)
発刊日 2011.12.09
希望小売価格 882円
書評日 2012.04.16
郊外はこれからどうなる?

この1月に読んだ「千葉県、初の人口減少 東京圏1都3県も人口減時代に」という記事が印象に残っている。千葉県の人口が昨年、1920年の統計開始以来初めて減少することが判明したという。こうした傾向は、数年前から予測されていたこととはいえ、改めて数字をつきつけられてみると、戦後膨張を続けてきた郊外しか知らない私たち団塊世代には感慨深いものがある。千葉県の場合、東日本大震災による液状化被害や、東葛6市などが放射線量の高い「ホットスポット」と指摘されたことが原因とされているが、こうした現象がなくても、少子高齢化などで、東京圏の郊外は10年代後半か20年ごろから減少に転じると予測されている。今後、郊外はどうなっていくのか大いに気になるところだ。

今回、「郊外はこれからどうなる?」(三浦展)という書名に惹かれて本書を手にとった。三浦展といえば、「下流社会」などで知られ、昨今は格差問題の専門家とみられがちだが、1982年にパルコに入社し、86年にマーケティング雑誌「アクロス」編集長に就任して以来、東京やその郊外に関するマーケティング・リサーチャーとして活躍。『「家族」と「幸福」の戦後史』や『ファスト風土化する日本 郊外化とその病理』などで郊外をテーマに社会論、マーケット論を論じてきた。

本書は6章からなり、第1章は「第四山の手論」、以下、第2章「東京は増加する人口を吸収してきた」、第3章「山の手の条件」、第4章「郊外の文化論」、第5章「郊外の歴史と問題」となっており、第6章で、ようやく「郊外の未来」が語られる。「はじめに」に「東京郊外を考えるための最低限の基礎知識が身につく、入門書を書こうと思ってつくったのが本書です」と断り書きがあるものの、内容と「郊外はこれからどうなる?」というタイトルとの間に大きな隔たりがあり、羊頭狗肉という感は否めない。

それでは、「郊外」とは何か? 明確な定義はないが、Wikipediaには「市街地に隣接した地域、はずれなどをいう。城壁や城部の外の広い土地や、市や城壁の一定の境界から拡大して開発された場所で、都市の外周部に位置する住宅街を指すことが多い。鉄道やバスなど、公共交通施設の拡大によって表れた都市の外縁部に生じる」とある。この定義によれば、首都圏では山手線の外側や、隣接する神奈川、千葉、埼玉などはすべて郊外ということになる。

首都圏郊外の膨張は、東京への若者の大量流入と無縁ではない。1950年から70年にかけて、首都圏には地方から団塊の世代を含む大量の若年層が流入し、彼らが結婚適齢期を迎えるとそれに見合った住宅が必要になり、そのニーズに応えるため郊外に住宅公団や民間ディベロッパーにより団地や建売住宅が大量に建設されるようになる。例えば、1971年には、住宅公団の多摩ニュータウン、72年には高島平団地など大規模団地の第1次入居が開始されている。

著者は東京の郊外の将来について次のように述べている。

「確実なのは、高齢化が進むことです。すでに日本の総人口は減り始めていますが、東京は2035年になっても現在とあまり変わりません。一方埼玉は、千葉、神奈川は2010年がピークで、その後減少し続けます。2035年には、埼玉は2010年と比べて80万人ほど減少。千葉は60万人、神奈川県が40万人ほど減少します。2035年以降は、さらにガクンと減っていきます」

「その上、65歳以上の高齢化率も増加していきます。1都3県で2010年の高齢者率は20%台ですが、2035年には30%を越えます。若くてお金のある人は、都心に移住するでしょう。ますます郊外では高齢者の比率が高まるのです」

現実に、ニュータウン入居から40年の時が流れ、当時20代後半から30歳前後の若夫婦は65歳以上の老夫婦となり、子供たちは転出、親世代が残ることでニュータウンはオールドタウンへと変貌しつつある。

「郊外の未来を考えていくと、どうしても高齢者が増え、子どもが減り、まち全体が停滞するという暗いシナリオに」なってしまうけれど、著者はいくつかの可能性を提示する。第1は「人口減少を契機としてまちのコンパクト化や高密度化を進めていけば・・・生産が上がり、経済活動も活発になる可能性がある」。第2に、今後郊外で増える空き地を有効活用することで「本来の田園都市やニューアーバニズムの住宅地のように、住宅だけでなく、商業、業務、文化などの機能がミックスされたまちになっていく可能性がある」等々。ただ、これといった裏付けが示されているわけではなく、あくまでも可能性に過ぎない。今後、マーケティング・リサーチャーとして、もう一歩踏み込んだ郊外論の展開を期待したいところだ。

最後に、本書は私にとっては多少期待はずれではあったが、首都圏の歴史や構造、アメリカ郊外の歴史、イギリスの田園都市思想などが丁寧に解説され、巻末には郊外論の基本文献も紹介されているので、著者の言うように、若い人向けの郊外論の入門書にはなっているのではないか。(健)

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